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体育・スポーツ・健康科学テキストブックシリーズ乳酸サイエンス―エネルギー代謝と運動生理学―

税込価格:2,808円【送料別途】
著者:八田 秀雄

サイズ B5判/ページ数 184p
2017年5月発行

【序文】

本書は2009年に発刊された「乳酸と運動生理・生化学—エネルギー代謝の仕組み―」(以下前書)を元にしています。前書では乳酸の代謝に関する内容の前後に、一般的な運動生理学の内容も加えていました。それで乳酸の話を理解すると共に、運動の必要性を述べて、一般教養の授業でも使用する意図でしたが、乳酸の本として考えると少し余計な印象もありました。そこで早い段階から、改訂もあり得るのではというお話を市村出版からはいただいていました。そして部分改訂というよりは、新しい本をつくるくらいのつもりで書くのがよいのではないかということになり、タイトルも変えてできあがったのが本書です。
本書は乳酸とその関連する内容に絞ることにしました。乳酸の内容については前書と章のタイトルや図表は同じものが多いですが、その後の知見も加え、内容を改訂しています。新たに加えた章は、血中乳酸濃度測定に関する6章、最近のデータを多く取り入れた9章のサラブレッドの乳酸代謝と13章の新たな乳酸の姿、そして最終15章です。15章はまとめとしてかなり大胆な提言をしました。自分の考え方なので、これを載せるかどうか迷うところでもありました。しかしこの提言は私がこれまでずっと乳酸のことを突き詰めていった結果として行き着いた考え方ですから、書かないわけにはいかないし、これを書くのも本書の有力な意義ではないかと思うようになり、掲載することにしました。
乳酸の内容に絞ったために、内容的に一貫してスッキリしたといえますが、一方で全編同じような内容が何度も繰り返されているともいえます。乳酸が疲労物質ではなくよいシグナルである、というのがたくさん出てくるのは当然ですが、それ以外の例えば疲労などの内容でも手を変え品を変え同じことを言っているようで、我ながら呆れます。その章ごとの流れで、同じことがどうしても出てくるということで、ご理解いただければです。文献は各章末ごとに載せることで作業を簡単にしたかったのですが、そうなると同じものが何度も各章末リストに出てくることになります。前書でも全部まとめて後ろに載せていたので、結局それを踏襲することにしました。それでさらに完成までが大変になりました。博士論文を再び書いたような気になりました。新しい本のつもりでやりましょうと軽く言ってしまったことを後悔もしながら、最初半年手つかず、その後半年はのろのろ作業をするも、また3ヵ月手つかずといったことで、結局完成まで2年かかってしまいました。

【15章より】

[糖の視点を持った新たな運動生理学が必要]

これまでの運動生理学は肺での酸素摂取量を中心に発展してきた。しかし本来肺での酸素摂取量から筋での代謝を考えられるのは定常状態に近くなった状態のはずなのに、運動開始直後や高強度運動のように定常状態にならない運動についても、肺での酸素摂取量のみから、酸素摂取量以外はすべて無酸素的代謝のようにみなされてきてしまった。運動開始時に筋内で酸素消費が起きていても肺の酸素摂取量の反応はもっと遅れているので、肺の酸素摂取量では筋での酸素消費量はわからない。また糖の分解は特に運動開始時に過剰に進みやすく、またその一方ですぐ低下する性質を持っている。糖が過剰に分解されることは高強度運動の代謝を理解する上で非常に重要な点である。また糖分解が過剰と解釈するということは、乳酸産生の2ATPを重視しないということでもある。糖分解によるATP産生がこれまであまりに過大評価されてきた。全ての運動は有酸素運動であって、ATP産生の主体はミトコンドリアによるものであり、糖分解によるATP供給量は補助的限定的なレベルである。筋中乳酸濃度で数mmol/kg程度の乳酸産生は、全体のATP産生量にはごくわずかというようなレベルでしか貢献できない。また糖は運動時に絶対必要なエネルギー源であるが量が多くないので、多く使っていると量が低下し、そうなると肺の酸素摂取量には関係なく筋収縮を妨げるなど運動の遂行や疲労に大きく関係する。そこで運動時の代謝を考える際には、これまであまりに肺での酸素摂取量だけで考えていたことを認識し、無酸素運動といったおかしな定義、乳酸産生によるATPの過大評価、3つATP産生系が独立してあるかのような認識をやめ、糖と脂肪の視点を持ちミトコンドリア中心の新たな運動生理学を確立することが必要である。

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